シンプルで意味のある「機能美」を現場へ
ファッションデザイナー×脱毛機、異色のコラボ

ファッションデザイナー 中島 篤 様 ロングインタビュー

話題の新商品、「ルミクスA9」をデザインされた ファッションデザイナー 中島 篤様にお話をお聞きしました。

ファッションにも通じる立体デザインの感覚

 2017年秋に大阪で開催された展示会「ビューティーワールドジャパン・ウエスト」でシャープなボディーデザインが話題を呼んだ新型脱毛機『ルミクスA9』。そのデザインを手掛けたのは、ファッションデザイナーとして世界的に高い評価を得ている中島篤氏でした。ファッションデザイナーと脱毛機という異色のコラボレーションに当たって、デザインにどのような思いを込めたのか、中島氏にお話を伺いました。

 ―本日はお忙しい中ありがとうございます。中島さんのご専門はファッションデザインですが、脱毛機という工業製品のデザインを手掛けられていかがでしたか?

平坦な生地を裁断して縫い上げる洋服に対し、工業製品は立体デザインです。一見遠いように思えますが、僕はもともとバッグのデザインを得意としていました。バッグも人の身体にとらわれない自由な立体デザインですよね。服でも立体を作るのが得意で、普通の洋服デザイナーとは少し違うタイプではあったんです。そういった経緯もあって、工業デザインにも興味を持っていました。実際に手掛けてみて、センスや感覚的な部分は機械にも反映できると感じましたね。

 ―『ルミクスA9』はこれから美容の現場で使われていくものになりますが、現場における美容機器のデザインについてどのようにお考えになりますか。

美容というジャンルですから、サロン様も部屋の内装にこだわっていると思います。そこにあまり業務的な機械がポツンとあると雰囲気が崩れてしまうので、美しいデザインの方が絶対に良いと考えました。
 『ルミクスA9』のデザインは余計なディテールを入れず、ミニマムなシンプルさを大切にしています。洋服もそうですが、あまり意味のないデザインを入れると不思議と気持ち悪く見えてしまう。適当な場所に適当な線をバッと引いたりすると違和感が出ます。きちんと意味を持たせた、例えば立体を作り出すための線だったりするとデザイン線になるんですが、そうでない限り下手なデザインは要らないと考えています。機能美ということですね。無駄をそぎ落として作られた「必要最低限」のデザインというものが、一番美しいのではないでしょうか。

ファッションと美容は繋がっている部分が大きい

「クラシック」に見出す歴史に裏打ちされた美

 ―普段デザインを作る時はどのようなところから着想を得ているのでしょうか。

 ファッションに関しては、クラシックなものが美しいと思っています。歴史的に生まれたものは意味があって美しいという考え方ですね。例えばジャケットでも、スタンドカラーを折って着るようになってそれがテーラードカラーになるといった歴史があります。歴史の裏打ちがあるデザインは一つひとつが意味を持っています。
時代とともにモダンなデザインは色々出てきますし、僕らはクリエイターなので新しいものに挑戦しますが、過去のものはやはり完成されていますね。現代の人も昔からあるジャケットやトレンチコートを着ますからね。デザインを始めた頃は「自分がデザインしたい、歴史を超えたい」という思いが強かったのですが、過去の服のディテールから持ってきてアレンジするくらいの方が、人が見て違和感なく美しく思えるのではないかと最近は思います。

ファッションと身体は常に一体化している

 ―当社が関わっているエステや脱毛などは身体をデザインしていくという意味合いもあると思います。身体をデザインするということについて、どのような思いを持たれますか。

 ファッションと美容はつながっている部分が大きいと感じます。僕らは洋服を作っていますが、洋服の内側の身体は美容でしかきれいにできない。いくら良い服を着ていても美容的な部分がきっちりしていないと美しく見えなかったりしますから、身体はファッションと常に一体化しているものだと思います。コレクションで発表する洋服も事前にフィッティングして、自分で着られるものは着てみたりもして、身体と一体になった時のイメージを描いています。

 ―美容というと女性のものと思われがちですが、最近は男性でも意識の高い方が増えてきました。

 ファッション業界でも男女の境界線がなくなってきています。街を歩いている人を見ても、男性と女性の服がどんどん近づいてきているのを感じますね。僕のブランドの服もユニセックスが多いですよ。デザインしていて「これは男女どちらに着せようかな」と思うことがあるほどです。
 世界的に見ても、例えばグッチなどのハイブランドも、これまで別で開催していたレディースとメンズのコレクションを同時開催するなどしていますね。時代の流れがジェンダーレスですから、美容の世界でもメンズ脱毛などが増えてくるのだと思います。

気になるモチーフは機能とデザインの融和

 ―今後はどんなデザインをしていきたいとお考えでしょうか。具体的に気になっているモチーフなどがあれば教えてください。

 これからはクラシックに回帰していくという感覚があります。何を作りたいか自分の中に問いかけてみると、やはりそうなるんですね。
最近気になっているモチーフはミリタリーです。軍隊に由来するものなのでデザインより機能が重視されていて、それが美しいというのが不思議で興味深いですね。森や砂漠に隠れるための色合いだったり、迷彩柄も地域によって違ったり。ポケットもデザインではなく必要だから付けている。すべてに意味があるんです。「機能の中のデザイン」が美しいという感覚は、工業製品にも通じるものがありますね。

 ―『ルミクスA9』でもベースとなった機能美の世界ですね。最後に、今後のスケジュールについてもお伺いしたいのですが、2018年はどのような活動を予定されていますか?

 まずは2月にミラノで新作を発表する予定です。ミラノコレクションへの参加はこれで5シーズン目になりますね。文化や歴史を大切にする風土があり、世界中からジャーナリストが集まる場でもあるので、これからもミラノでの発表は続けていきたいと考えています。

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 不必要な装飾を排し、すべてに意味があるシンプルなデザインを志向する中島氏。「機能美」を追求した『ルミクスA9』は展示会で話題となり、現場での稼働もスタートしました。異色のコラボレーションが生み出した「美しい脱毛機」として、あらゆる女性に美をお届けしていきます。

  • デザイナー 中島 篤 (なかしま あつし)様
    名古屋ファッション専門学校卒業後、ジャンポール・ゴルチェ氏のスカウトを受け2004年に渡仏。ジャンポールゴルチェディフュージョンライン ヘッドデザイナーを務める。11年に帰国し、自身のブランド「ATSUSHI NAKASHIMA」をスタート。15年よりミラノコレクションで作品を発表している。
中島様のお話をお聞きして

静かな語り口で、丁寧に言葉を選んでインタビューに応えてくださった中島さん。発する言葉の一つひとつを自身の作品のように大切にされている方だと感じました。スペースの都合で本文中では割愛しましたが、興味深かったのはモチベーションに関するお話。もともと物事に熱中する性質で、いったん集中すると脳のブレーキを掛けずに一気に突き進んでしまいがちだそうです。集中力は作品を生み出す原動力にもなりますが、揺り戻しでモチベーションが落ちてしまうこともあるので、最近は意識的に休むようにしているとのこと。鮮烈なデザインをコンスタントに発表し続けることの大変さに触れた思いがしました。